以下の要領でCAPEワークショップが開催されます。皆さまのご 参加をお待ちしております。
日時:2016年10月5日(水)14:00-16:00
場所:京都大学文学部校舎地下1階大会議室
講演者:牧野英二教授(法政大学)
題目:ディルタイの「生の哲学」と「歴史的理性批判」の射程 ーカント、ハイデガー、アーレントを手掛かりにしてー
要旨:
敗戦直後の昭和21年(1946年)に生前の西田幾多郎博士等に よる推薦文付きで、『ディルタイ著作集』(創元社、全15巻+ 別巻1)が西田門下の多くが編集校閲・翻訳者として加わり刊行を 開始した。だが、第四巻一冊を刊行しただけで、 この企画は頓挫した。西田幾多郎、和辻哲郎、三木清等、当代の第 一級の哲学者によって高く評価されたディルタイ哲学の意義は、 その後の流行思想の陰に隠され、長い間忘却されてきた(ちなみに 和辻哲郎は、ハイデガーよりもディルタイの解釈学を高く評価した )。ところが、ディルタイの主著『精神科学序説』第一巻(188 3年)の遺稿(第二巻)が100年後の1983年に刊行され、そ れをきっかけにグローバルな規模で「ディルタイ・ルネサンス」が 着実に進行してきた。
報告者は、新たな構想の下で刊行を開始した日本語版『ディルタイ 全集』(法政大学出版局、全11巻+別巻1)の編集代表として企 画・編集校閲・訳者を務めてきた経験に基づいて、ディルタイの生 の概念と生の哲学、解釈学の意義とともに、彼の歴史的理性批判の プロジェクトの歴史的・今日的意義を論じる。
特に近年、「生」をめぐる哲学的・倫理学的議論の必要性と深まり だけでなく、生政治学や精神病理学、生命科学や医学など諸学問の 広範な展開のなかで、「善き生」と「剥き出しの生」の区別( アーレント、アガンベン等)に関する問題や「人工生命」 の課題等に直面する今日、これまで多くの誤解に晒されてきたディ ルタイ哲学の正確な理解を深めることは、 意義のある思想的営為であると思われる。今回の主要な報告内容は 、以下の通りである。
①ディルタイ(Wilhelm Dilthey,1833-1911)の「生」(Leben)と は、どのような概念であったか。
②ディルタイの「生の哲学」(Lebensphilosophi e)とは、どのような哲学であったか。
③「歴史的理性批判」(Kritik der historischen Vernunft)とは、どのような批判の試みであったか。
④ディルタイの歴史的理性批判によって提起された哲学の課題はな にか。
⑤現代哲学の立場から見て、ディルタイの「生」とその哲学的解釈 学の意義はどこにあるか。
上記の主要課題について、まずディルタイ自身の論述に即して、彼 の哲学思想の内容理解に努める。次に論文の形式によって、新カン ト派、ハイデガー、アーレント、ハーバマース等によるディルタイ 批判と評価を手掛かりにして、ディルタイの生の概念、 歴史的生の解釈学、歴史的理性批判の試みの哲学史的及び今日的意 義を論じる予定である。